デンマークで一番好きな場所は?

「ここだよ!家族がいるからね。」

Matias Stridslandは、笑顔でそう答えた。

森と湖に囲まれた静かで穏やかな村。

デンマークの首都コペンハーゲンから北に40㎞、Gurreという村にSTRIDSLANDがある。

これがMatiasの自宅兼ワークショップだ。


(友達と自宅裏に建てたワークショップ)

藁ぶき屋根の自宅は築200年。(この様式の建物は、法律で維持保存が義務付けられてるらしい)

Matiasは言う。

「カナダからデンマークに移住して5年ほどはコペンハーゲンに住んでいたけど、家族が増えSTRIDSLANDも軌道にのってきたタイミングでGurreに来たんだ。

スペースと自然を求めてね。

友達家族と一緒に住める家がなかなか見つからなかったんだけど、手ごろな価格で自然も最高な場所に出会えたのは運がよかったよ。」

Matiasは、パートナーの献身的な助けも借りて、ここで1人STRIDSLANDを運営している。

両親はデンマーク人、20代でカナダへ移住。Matias本人はカナダで生まれ育ち、17歳のときデンマークへ。

コペンハーゲンのカーゴバイクメーカーOMNIUMでパートをしながら、趣味で始めたSTRIDSLANDが徐々に評価を得て、その比重が増え今に至る。

OMNIUM時代からも既にフレーム設計に携わっていたが、そのノウハウは独学。

グラフィックデザインやコミュニケーションデザイン、写真を専攻していたことからAdobe Illustratorで図面を書き始めたんだとか。

フォーラムを読んだり、実際に乗ってきたバイクの経験からジオメトリーを描くことができた。
(お隣同士で住む友達家族のBeachcomber)

Matiasとの会話から強く感じたのは、“大好きな自転車の事を考えながらも、家族との時間も大切にできる暮らしをデザインしようとする姿勢”だった。

きっと、この場所を選んだ理由も、ブランドを一人で運営しクオリティと時間をコントロールしてるのも、そこに繋がっているんだと。

一方で、“忙しくて大変な時もあるけど全てを自分でコントロールしたい”とも語っており、プロダクト作りへの強い拘りも感じられた。

南の窓から穏やかな日が差し込むPITスペース。

きちんと整理されているが緊張感を与えない開かれた空間は、まるでMatiasの心を表す様だった。

ここで、STRIDSLANDのロゴについての話も聞けた。

このモチーフはMatiasが生まれ育ったカナダ西海岸の風景に由来する。

海に面し自然豊かで林業が盛んなカナダの西海岸で育ったMatias。

山の斜面で切り倒された丸太が海に落とされ、それを集める為の小さなボート“Boomboat”が動き出す。

その“Boomboat”にかき集められた大量の丸太は、巨大な筏(いかだ)となって、タグボートで製材所まで運ばれてゆくのだが、

嵐の日には丸太が1本、2本と外れることがあり、流され漂着する。

それら迷子の丸太を探し回り拾い集める連中が“Beachcomber”だ。

Beachcomberは見つけた丸太に“Log Dog”という杭を打ち込みロープをかけて持ち帰る。

丸太1本でも個人にとっては稼ぎになるんだよ。

STRIDSLANDのブランドロゴは、この“Log Dog”を模したものだ。

ロゴだけでなくBeachcomberやBoomboat、Barnacle fork、Anchor barなどの製品名も、この海辺の風景に由来するのはお察しの通り。

※補足として、beachcomberの製品紹介ページから以下を引用したい。

“I guess I’m drawing some parallels between the rough utilitarian function of those log dogs and my frames and parts, as well as some shared values with the old beachcomber lifestyle.”

「僕は、ログドッグの無骨で実用一辺倒な役割を、自分のフレームやパーツに重ねているのだと思う。そして、昔ながらのビーチコーマーの生き方とどこか通じる価値観も持っているのかもしれない。」

(この動画から)

“Not making a dime, I love the work, but no, I’m not making any money.”

「1セントも稼げちゃいないよ。この仕事は大好きだけど、いや、金にはまったくなってない」

(Matias)

“Haha yep, I can vibe with that.”
「ははっ、うん、その気持ちわかるなあ。」

出展:the beachcomber

バイクも見せてもらった。2台のBeachcomber。

1台目は、Matias曰く「Dad Bike」。パパチャリだ。

トップチューブに子供用シートを取り付けてある。デンマークではポピュラーなスタイルだそう。

「Bullship barのハイライズのお陰で、子供の膝が収まるんだよ。偶然だけどね。」

Matiasは楽しそうに、そう言った。

幼いころから、キックスクーターに乗りテールウィップしたり、スケートパークで遊んでいた。

少し大きいくなってからは、ダウンヒルロングボードで、とにかく速く下る事を楽しんだ。

そこからBMXに出会い、再びスケートパークに顔を出すようになる。

同時にMTBやトライアルなどいろんな遊びをしてきたMatiasは自転車に乗るのが本当にうまい。

「いつもウィーリーしたり飛んだりしてるけど、見せびらかせたいわけじゃないんだ。ただ楽しいだけなんだ!」

そんな彼のパパチャリには、ラック&バスケット、ダイナモライト、フェンダーが装備される。至って実用的な組み方。

  

ワークショップには、他にもたくさんの試作や愛車が並ぶ。

「自転車に乗ろう!」

僕らはワークショップを後にした。

デンマークには、ほとんど山が無く、Gurreも例にもれずで、起伏の無いのどかな道が続く。

民家を抜け、ほんの数分も走ると見覚えのある景色が目に飛び込んできた。

STRIDSLANDのインスタでよく見る背景。

倉庫代わりに使っている秘密基地みたいな廃コンテナを見せてくれたのだ。

ここにもたくさんの私物バイク、試作品、捨てられないパーツ、各種ストックなどが詰まっている。

「いつか試作品を歴代で並べたアーカイブ展示にしたいんだけどね」と夢を語ってくれた。

下が、beachcomberの第1号フレーム。

そして出してもらったのが「全ての始まりのバイク」と言われているGT Karakoramだ。

Matiasと同じ年齢。1993年製だそう。

この自転車にアンカーバー風のハンドルを着けてみたり、Discブレーキを溶接したり、ドロッパー用に穴を開けたり、

自分好みに様々な改造を加えては写真を撮っていたんだよ。それがSTRIDSLANDの出発点となった。

秘密のコンテナ基地を出て走り出したMatiasのあとに続く。

これから走るのは、子供たちと一緒に走ることもある簡単なルートだそう。

牧場沿いの開けた道。

木漏れ日が気持ちい林道を抜け、Matiasお気に入りの湖を横目に進む。

当然、ギャップを見つければ遊ぶ。本当に楽しそうで、上手だ。

どれぐらい走っただろうか、体が温まりシャツを脱ぎたくなってきた頃。

突如、目の前が明るく開け、大きな海が広がった。とても気持ちが良いサプライズ。

肉眼でも見える向こう岸はスウェーデンだそう。

「フェリーでスウェーデンに渡って、あっちでバイクキャンプをするんだよ!」と教えてくれた。

海沿いを走り、港で食事をとった。

この時Matiasが乗っていたのは、もう一台のbeachcomber Tiモデル。

前後にダイナモこそ付いてるものの、こちらは先のパパチャリとは対極の組み方で、軽量装備のプレイバイクだろうか。

Matiasが乗ってると、とても軽そうに見えた。実際チタン製は軽いし、本当に楽しそうなフレームだ。

 

SONのダイナモ配線をSHIMANO化して着脱を簡単にしている。自転車をずっと触ってる人しかやり得ない改造。

これはほんの1例だけど、Matiasの開発者気質を垣間見れた気がした。

自分好みにより良くしたり、無いものを作ったり。思ったことをカタチにする姿勢。

リアダイナモ配線用の穴開け加工。

パパチャリとプレイバイク。

BeachcomberはMatiasの中にある2つの実用を見事に実現していた。

最後にSTRIDSLANDのキャッチコピー「Ride slow ,die whenever」についても。

「Live fast, die young(生き急ぐ)」の対義としての造語だ。

Matiasと過ごした時間から感じとれたSTRIDSLANDの空気。

そこから意訳すると、こんな感じだろうか。

「ゆっくり走ろう。どうせいつかは死ぬんだし」

影響されて、少しゆっくり走ってみようかな。

Matias、大切な場所を案内してくれてありがとう!

関連Blog:デンマークの自転車事情。その①