「ビューセージ」、Rivendell創始者グラント=ピーターセン著の本で知った言葉。
【“使い込んでの“美しさ】という意味だそう。
元々の美しさじゃなくって、道具として使って“その痕跡がついての”美しさ。自然劣化じゃなくって、使用経年変化。
僕はこの「ビューセージ」を知って、とっても楽になった。昔は愛車を倒してしまって塗装が欠けたら必死にタッチアップしたり、ビンテージパーツのアルマイトを剥いてポリッシュしたり、、自分のバイクを綺麗に保つことに疲弊していった。
しかしある日、日本で見慣れぬRivendellというバイクの写真に出会い、特にグラントさんの私物バイクを見て、「なんでこんな格好いいんじゃろう?他のバイクと何が違うんじゃろう?」と疑問を持った。
調べていくうちに”ビューセージ”という魔法の言葉に秘密があったことを知った。
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グラント御大は言う「自転車はビューセージを持つべきだ」と。
「理解できない人も、実はきっとジーンズやギター、ブーツやレザーの財布、ツヤが出た木のベンチや油を差し続けたポストの蝶番など、ビューセージの美しさをすでに知ってるはずだ」と。
たしかにRivendellのバイクは特に(Surlyも当てはまると思うけど)このビューセージされた姿が新品ピカピカより良く見えた。
思えば自分が心奪われて保存しているRivendellの写真の多くは新品新車ではなくってビューセージされたものだったな。
これって「自転車を大事に(綺麗に)するな」って言ってるんじゃなくって、価値や愛着って時間と共に減っていくんじゃなくて増していくんだよ、っていう、モノにすれば実は無敵の価値感。
NIKEのハイテクバッシュってピカピカのときが一番格好いいけど、ブーツやVANSやコンバースって味が出てからの方が格好いいじゃん、っていうのにちょっと似てる。
お世辞にもキレイで几帳面とは言えないグラントさんのバイク。
汚れていたり、傷がついていたり、レザーやコットンは褪色していたり、
レバーも片方ズレてしまっていたり、バーテープも麻紐もイビツ歪でランダムで・・・
でも、
引きで見ると、携帯の画面越しに見るどのRivendellより格好いいし、新品でピカピカに磨いたバイクより美しい。
なーんつって、グラントさんのそのお言葉の意味が少しずつわかってきたのはこのほんの数年。
・・・
グラントさんの哲学に価値観を変えられたというウルトラロマンスを世界に知らしめた、
自転車界隈にとてつもないインパクトを与えたこのバイクも、その秘密はビューセージにあるな、と思います。きっとロニーは知っていたんじゃないかな。
さらに自分のパソコンのランダム壁紙コレクションフォルダの奥深くをディグる。
心を動かされ、なんの気になしに保存した写真はビューセージされたバイクばかり。納車前のピカピカの写真って滅多にないな。
環境劣化=駐輪場にほったらかしに放置した劣化と、毎日愛用して劣化した(=ビューセージ)ものは目で見てわかるほど違う。わざと汚した、傷をつけたのとももちろん違う。
このSam HillborneはRBWスタッフのWill君のもの。「どんなパーツ使ってるんだろう?」って問題じゃないんだな。毎日通勤で乗って、毎週末仲間とライドに繰り出してビューセージされているから格好良い。
これが理解できると、自転車にできた傷さえ愛おしく思えるし、バイクを倒してしまっても泣かなくて済むし、時間が経っても自分のバイクを愛していける。イコール、乗りに出かけるのが好きになる。
・・・
なんてことを考えていたら、お客様のバイクだって納車前の状態ももちろん写真に残したいけど、オーナーが数年乗り倒してからの姿こそ写真に収めたり、発信するべきなんじゃないか。皆さんもそっちの方が見たくなってきたでしょう??
なのでこれからはチャンスがあったらビューセージバイクチェックやってみようかしら、と思っています。
例えばこれは、お客様SさんのSam Hillborne。
この度はハンドルのカスタムでピットイン。お預かりでのカスタムだったのでその間に撮影。
選んでもらったのは*CRUST BIKES* ron’s ortho bar。
クランプ系26.0mmっていうのは、強度の面のニュアンスだろうけど、長いものが手に入りやすいOLD ROADステムのことも考えているのかな、なんて想像します。(古いロードステムはドロップで使いやすい80-100mmの”良い長さ”って枯渇してて出回らなくて、このバーにぴったりな120mm以上なら手に入りやすい)
超素敵だけど26.0クランプのため使いにくいでお馴染みの*NITTO* rivendell lugged stemの長めサイズをお持ちだったので、このバーと完全なるペッタンである。ピタッとくる気持ちいい。
乗り込んだポリッシュハブのくすんだこの状態が美しい。
Rivは「チープなパーツこそ正義」って価値感もあるのだけど、高価だけど”高耐久”の良いものを選んで、長く使っていっぱい酷使するって価値観。
ダイナモの「ザ・ベスト」こと*SON NABENDYNAMO* SON deluxと、*WHITE INDUSTRIES* MI5 hubの組み合わせ。どちらも使いきれなくて輝かせてたらアレだけど、ここまで使っちゃうのが格好いいですね。
ビューセージされたRivendellのバイクの、フォークのラグ肩の”羽”に砂埃が溜まってるのって興奮しますよね。
*RIVENDELL* S-2 thumb shifter、日常で登場回数の少ない左シフターはステム首に。
ライトはアルマイトカラーバリエーションが楽しいSINEWAVE。外部アウトプットが付いていて充電ができたり、って機能が語られがちですが、光量も十分で普段使いにも良いです。
ラックはいつものRivendell M-1ラック、ではなく32Fという少々マニアックな選択。これは昔のrivendell品番で、いまだ現行品番ですが、Vブレーキと共存できないこと、足の長さが変えられずつけられるフレームが限られるのでM-1に取って代わられた、と言う過去がありますが、でもこうやってみるとM-1にはない色気がありますね。
あと写真では見えづらいですが、ラックの足にライトマウント台座を溶接してあります。これもアルミ製の足を持つM-1ラックにはできないカスタム。
そして経年変化の象徴レザーサドルはGilles Berthoudのコルクカラー。
僕個人的には、RIVにはBROOKS派なのですが(グラントさんの「フレンチランドナーと混同されたくない」って言葉に影響を受けている)このオーナーが使い込んだこの質感は新品を凌駕する。のと同時にブーツや野球のグローブのようにオーナーの骨格に合わせて馴染みが出て「お尻痛くならない状態」に突入しています。
・・・うむ、ビューセージバイクチェック楽しい。もう一台行きます。
こちらもSam Hillborne、こちらもお預かりカスタムで撮影しました。
書いてて思ったんですが、このビューセージバイクチェックはフレームの”色”も楽しいですね。「え、SAMにこんな色昔あったんだ」なんて見方もできるし、今手に入る色も何年か経てばこうやって宝物になる。
このカラー「セージ」のSAMは代々木公園店のまっちゃんの愛機でも有名。今見てもとっても素敵な色。たしかこの色でCHEVIOTもあったような記憶です。この色でいつかCHARLIE H.GALLOP作ってくれないかな〜
色もそうだし、稀に起こる形状や部材のマイナーチェンジ、
このSAMだとシートステーの集合部、キャップ型のステーが使われていたり。
今回のピットインではハンドルはロングアルバトロスバーことBillie Barを選んでもらいました。持つとこ多くて疲れない、が触れ込みです。このオーナーは自身でバーテープ巻きもニス塗りもできちゃう人なのでここから変わっていくのだろう。
グリップはRivendellのコルクグリップ。これも経年変化してくので頑張ると「これ木なのか?」ってところまで行きます。
(もう少しで木、の例)
レザーやコットン、金属部品だけでなくって、
バッグもビューセージ。このSWIFT ZEITGEISTは何年愛用されてるんだろう?焼けたコーデュラナイロン。
今回はドロップハンドルからハンドルカスタムだったのだけど、自然とビューセージされた車体に馴染むブレーキレバー。MX-2レバーは歴史がある復刻モデルなので、馴染む。また、カンチブレーキ↔️Vブレーキどちらでも引けるので、そのブレーキ2種を行ったり来たりしがちなSAM HILLBOENRとは相性が良かったりします。
「古いの万歳!手に入らないもの最高!」っていうのは違うと思いますが、その時手に入るものを大事に愛用し続けて、自分の愛車がそうなっていくのは最高ですよね。
新品バイクには感じることのできないビューセージを纏ったバイク、でもこのバイクだって当時は新品のバイクだった。そこを使って乗って酷使して、直しながら道具のように使われていったRivendellってめっちゃ格好いい。
価値や愛着って時間と共に減っていくんじゃなくて増していくんだよ、っていう無敵の価値感。一緒に自転車育てましょう。「ビューセージ」のススメでした。
最後まで読んでくれた方ありがとうございます、タニでした。