先日、代々木公園店のクリントがMIDNIGHT SPECIALの展示車を組んでいました。最近は新車のご指名や、カスタム依頼でも見る事も多くなった。
純粋なロードバイクではないけど、アティチュードはロードバイクなんです。という自転車。
なのでスピードは出せる、でも走れる場所を限定はしない。しかし乗る人のスキルや遊び方に応じてね…。
というSURLYイズムが注入されたどちらかと言えば速いカテゴリーのフレームです。
クリントが組んだ様な手前にグッと戻ったハンドルの仕様は、今後も指名が増えそう。
古いクロモリロードをコミューターにして乗る、MESSな文化を彷彿とさせるスタイル。
リラックスポジションなのに、スピーディーにどこへでも。
そんな組み方も良いじゃないかと思わせてくれました。
で、最近お客様からオーダーを頂いたMIDNIGHT SPECIALも超良かった。
自分の拗らせたマインドをハッとさせてくれた一台。
「こんなバイクが憧れなんです…。」と見せて貰った写真は、一見クラシックでゆるいスタイルでした。
ご希望頂いた用途とは少し離れていたのですが徐々に形にしていくと、
おおお、何だか良いバイクになるっぽいぞ…とフツフツ高まっていきました。
結果、肩ひじの張らないロードバイク?走りに自信あるコミューター?みたいなバイクに仕上がりました。
組んでいくうちにカルトで伝説的なあのバイクっぽさが出てきたのが楽しかった。
(このハンドルの事掘ってたらとてつもなくのめり込みました…。あんな歴史があったなんて。付けたい。)
最近自分が好みだったのがドロップハンドル、伝統的なロードバイクシルエットだったので、
この二台は頑固になりかけていた頭をほぐしてくれたナイスバイクでした。
でもふと考える、逆にMIDNIGHT SPECIALが出来ない事ってなんだろう。
そこそこスピーディーだし乗りやすい。走れる場所も結構手広くカバーしてる。
荷物を乗っけてもそんなストレスに感じない。個人的には最強じゃんと思うフレーム。悔しい。なんか弱点ないかな…。
そう思いを巡らせていると、接客中の誰かのこんな声が。
「スタンドはコレに付かないんですよー…。」
それだ。
ディスクブレーキのケーブルガイド位置が絶妙かつ、取り付けれる場所がタイトなので、挟みこむタイプのスタンドがこのバイクには付きません。
(SURLY的にはセンタースタンドはフレームパイプをつぶしちゃうかもだから、付け方とフレームは考えてくれよ…ってスタンスっぽい。)
MIDNIGHT SPECIALはSURLYの中でも割とスポーツの部類に属してるフレームだと思うので、
そもそも付ける考えがないんだと思います。それは他のバイクに任せようよと。
で、じゃあ逆に付くフレームってどれよ??って見渡してみる。
あ、意外に無いかも…。
どんだけ付けてきたか分からないCROSSCHECKは生産終了。新生PREAMBLEはワイヤーの場所がお邪魔。
カラテモンキー達はチェーンステーがプレートだったり広すぎたりだからうまく挟めないし、STRAGGLERとBRIDGE CLUBはサイズによってはうまく付かない。
と言うか付ける際に傷付いていしまうぐらいフレームとボルトが接してしまう…。
思えばSURLYのバイク達、スタンド取り付けに関しては一筋縄じゃいかないメンツ。
スポーツバイクにしてはまだ対応力あるほうかも。
そんな中、余裕の表情でこちらを見ているバイクが一台あった。
その名も「DISC TRUCKER」。
この専用プレートを付ける事でより強固に、そしてダメージを与えることなくセンタースタンドを取り付ける事が出来ます。
上馬店の一周が愛し、共に日本を駆け巡る長旅を連れ添った車両。
一周が乗っていたのは現行モデルの一つ前。クイックリリースでISマウントのディスクブレーキ対応だったな。
現在はMIDNIGHT SPECIALと同じ様に、前後12㎜スルーアクスルのホイールにフラットマウントディスクブレーキの仕様。
規格が共通なので、もし近年のディスクロード等からの載せ替えを検討されている方には、
欲する乗り方次第ではDISC TRUCKERも選択肢の一つに入るかも。
そんな導入で今日はDISC TRUCKERの話を。
~SURLY、TRUCKERシリーズの話~
元の形は「LONG HAUL TRUCKER」という、カンチブレーキ使用のツーリングフレームでした。
2004年にデビュー。プロトタイプのこの写真は僕や谷さんのブログで過去に見た覚えがある人も多いのでは。
そのプロトタイプに乗っていたのがSURLYの本拠地で店を構えているONEONONEという自転車店のボス、GENEさん。
彼は過去にブリジストンUSA(以下BS)に所属していたMTBレーサーで、当時RIVのグラントさんはBSに勤めていて彼がBOSSだったそう。
ちなみにプロトタイプに付いているマスタッシュバーはグラントさんがBSに居た時にデザインした車体に標準装備されていた物で、
同じくグラントさん発案で生まれたマルチポジションハンドルだったのだとか。
RIVに関わった人がそのプロトタイプに乗っていて、かつRIVの匂いがする組み方で試していたとなると、
TRUCKERシリーズのチェーンステーの長さにはそのエッセンスが入っているように思えてならない。
(海外の旅人のレヴューなんかをみていると、アトランティスと比較されてたするのを目の当たりにして、遠からず近からずな車両なのかもと感じました。)
SURLYの歴史を掘った時、始まりはシングルMTB、そこからコミューター、派手に乗っても壊れないダートジャンプ。ロードバイク…。
足りないエッセンスが一つだけありました。それは、“ツーリングバイク”。
過去のカタログに、SURLYが旅に関するコメントを記してありました。
“実際、本当に長いサイクリングほど壮大なものはない。心がリセットされる。
身体と精神に挑戦する。心を揺さぶり、浄化し、癒し、リチャージする。”
この時のSURLYクルー疲れてたのかな…、と思ってしまうほど悟りの境地ごとき言葉。なんだか今の自分にとても染み入ります。
とにかくこのタイミングで旅バイクを出したのが世の中的にも意外な事だったらしいのが、説明の前文で伺い知れました。
クロモリ製のツーリングバイク。2004年の有名ブランドはほぼアルミフレーム、カーボン素材の全盛期だった事もあり、
当時にしては逆に珍しく“化石”のような存在に思えたのかも知れません。
ただ、そのクロモリ製の恩恵は後にベストセラーになる程に絶大で、
安定感ある乗り心地と丈夫さ、そして破損してしまった際はどんな国でも容易に直せる素材だった故、
以後約20年、世界中の旅人に愛される物になりました。
惜しくも2020年頃にフッと消えてしまいましたが、我々はこのフレームで数多くの日常に携わる自転車を組んできました。
クロモリ製の見た目故にスポーツ感のない、でも日常過ぎないバイクに仕上がる事。
丈夫さ、安定感は日常の積載の為や、少し特別でありたいパパさんママさん、キッズの為のモビリティにだって。
このバイクのおかげで、日本の東京におけるスポーツバイクを使った日常。その可能性が広がった一台だったように感じます。大げさかな。
本来の用途を知り、その応用で可能性を知れたバイクだった。TRUCKERシリーズを再考したらそんな風に思いました。
そしてそのDNAを受け継ぐDISC TRUCKERはモデルチェンジを経て、今こうしてラインナップの一つにあります。
何とも言えない乗り心地。速く走れそうだけどゆったりしている、どちらともいえない、妙な安心感と安定感がある感覚は、
自転車の楽しみ方が増えて選び放題になった今、改めて乗ってみると真新しさがありました。
刷新された箇所は充分に、このバイクをより説得力ある物にしてくれていて、あんな組み方やこんな組み方にも縁の下の力持ちになってくれています。
“The Long Haul Trucker isn’t the bike that everyone is going to have.
It isn’t the next bigthing.
It won’t race like a champ or scream down rocky singletrack.
It isn’t about impressing your friends.
It’s a tool for finding out what you are capable of inside.
Are you ready to ride?
Long Haul Truckerは、誰もが手にするバイクではない。
次の大物でもない。
チャンピオンのようにレースをするわけでも、岩場のシングルトラックを叫びまくるわけでもない。
友達を感動させるためのものでもない。
自分の内面に何ができるかを知るための道具なのだ。
乗る準備はできていますか?”
LONG HAUL TRUCKERが初お披露目時に紹介された末文で今日は締めさせて頂きます。
日常で使うバイクこそ、こういうマインドなのかも知れない。
それでは。