「ローマの休日みてえに優雅に乗れるチャリはねえか?」
と、ほろ酔いの父がいいちこ下町ハイボールを片手に聞いてきた。
ローマの休日って自転車じゃなくてベスパじゃなかったっけ…。と思いつつ、「ピッタリなのありまっせ。」とヱビスビールを片手に返事をした。
父は昔から酒飲みだ。幼い頃に父が酔っ払っている姿を見て、「酒なんてぜってえ飲まねえ」なんて思っていたけれど、気づけば実家に帰る度に一緒に酒を飲んで、一緒にヘラヘラするようになっていた。
スピードを気にせず、のんびり乗る自転車なら間違いなくRivendellがいいよと提案した。
「おぉ!この紫のやつカッケーじゃんか!」
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そう言いいながら差し出してきたスマホの画面にはAnaさんのPurple Rivが映っていた。
ああ。そういえば、昔から紫色好きだったっけ。ばあちゃんが好きだった色でもあったっけな。
ちょうどAna PurpleのPlatypusが入荷したタイミングだった。「これにそっくりなやつあるから、買ってサイクリング行こうよ!」とジャブを打ってみると、酔った勢いなのか父は買うことをその日に決心した。
そして出来上がったのがこのPlatypusだった。組み付けはデジさんに担当してもらいました。
父が神奈川の田舎から幡ヶ谷店に来てくれて、一緒にパーツを選べたのが嬉しいし、楽しかった。(ほぼお任せだったけど)
LUGのご飯はいつもとても美味しいけど、父と一緒に食べたあの時のクロックムッシュは一段と美味かった気がする。
思えば、社会に出てから自分がどんな仕事をしているのかを親に見せるのはこれが初めてだった。
幼い頃、授業参観に来た両親にいいところ見せようと調子に乗ったあの頃の感情を少し思い出した。三十路の僕だけど、結局は父の息子なんだな。と少し照れ臭くなる。
ダイナモ、キックスタンド、フェンダー、バスケットはマスト。「ケツ痛くならないサドルがいい」ということでRivendell Comfort Saddle。
グリップやチェーンステイガードなどの細かいところは、デジさんがアドリブで入れてくて、ローマの休日Platypusが完成しました。
納車してからしばらく時間が経ってしまったが、先月約束通りライドに行ってきました。
本当はMy Clemを持って行きたかったけど、バスケット&ダイナモ付きのバイクは少々僕にはハードルが高かったのでLightning Bolt Single Speedを持って行きました。
実家に無事着いて、父と合流したらレッツゴ〜。
うん。いい天気。寒いけど気持ちいい。
ん、あれれ?
よく見たら服装の色合い全く一緒じゃん。ハズい。
まず向かった先は父のfavorite soba spot。冬にすする鴨南蛮は染みるぜ。
腹ごしらえを済ませたら、川沿いをひたすらのんびり走ります。
20代前半の頃、ひたすらスケボーしまくっていたこのスポット。10年後に父親と共にサイクリングするだなんてあの頃の僕は思っていなかっただろう。
川沿いを走り続け、ついた先はS川神社。一月後半とはいえ、まだまだ混み合っていた。
人混みが苦手なところも父親譲りな僕。お互い人の多さに喰らって、滞在時間は5分。お参りだけして帰路につく。
来た道を戻ります。ビルがなくて山がよく見える。
せっかくなので、直帰せず、僕が地元に帰った際に友人とよく行く喫茶店へ。
「なかなかいい店じゃねえか。」と父は眼鏡を曇らせながらコーヒーをすする。
「さて、腹も減ったし母ちゃんの飯食いに帰ろうか。」
地元で見る夕焼けはどうしてこんなにもエモいのか。
さあラストスパート!緩やかで長い坂が続きます。
Tosco Barのグリップ部分を持って必死でペダルを回す父。
「ブレーキレバーの奥側に余分なバーテープ貼ってあるでしょ?そこ持って漕いでみ?」とアドバイスをした。
閃いたような顔で「おお!なるほど!」と言いながらスピードを上げ、緩くて長い坂を登り切った。
その晩、父はいつもの様にいいちこ下町ハイボールを片手に、僕はヱビスビールを片手に母が作ったご飯をつっつく。
「いやあ〜今日の最後の坂キツかったけど、お前が言ってたハンドルのポジションであんなに変わるとはなあ。おもしれえわ。」
嬉しそうな父を見て僕もつい嬉しくなる。
そんな父は今日で63歳。まだまだイケるね。