「あのキャリパーブレーキを作るのをやめないで…」とつい漏れ出た、
昨年のアメリカ出張でのvelo orangeとの会食、in ダブルドラゴン(フュージョン系チャイニーズレストラン)。
かたや日本かたやアメリカ、お国柄が変わるとバイク事情も変わるところで。
なんでこうなんだろうなぁ!なぁ!と、言葉を酌み交わした一幕でした。
キャリア20年のベテランメカニック、アモン氏とあーだこーだと言ったひととき。
やはり同じメカニックとして思うことは一緒、同じ言語が話せなくとも通じ合う脳内…呼応するシナプス…
で、冒頭のパーツがコチラ。Velo Orangeのラインナップに唯一存在するキャリパーブレーキ。
アルミニウム削り出しのCNCで作られ高級感漂う見た目に違わず、カチッと止まってくれる秀逸なブレーキです。
しかしこのブレーキはいわゆる「ふつう」のキャリパーブレーキではありません。
近年の大衆的バイクシーンからはフェードアウトしているバイクジャンルのブレーキなんです。
そのジャンルは「ロードバイク」や「マウンテンバイク」のようなみんながみんなイメージする呼び名がなく、
曖昧な立ち位置からいくつかの呼ばれ名があります。「スポルティーフ」「ミディアムリーチロード」etc…
現代では「オールロードバイク」という呼び名が多くの方がしっくりくる表現かもしれません。
要は普通のロードバイクよりも少し太いタイヤを履かせることの出来るロードバイクなんですが、
少し前までのメインストリームであったロードバイクにはせいぜい太くとも28Cまで、細めのちくわ程度のタイヤしか付けられず、それ向けに作られていた「ふつうのキャリパーブレーキ」には太いタイヤをつける為の空間はありません。
写真のバイクで25Cのタイヤが取り付けられているのですが、見ての通りキャリパーブレーキとタイヤの隙間はほんの少し。
Cielo/Sportif classic
このバイクはCieloの”スポルティーフ”クラシック、前述のブレーキが適合するフレームで最大タイヤクリアランスは32cほど。
先ほどのレーサータイプではクリアランスカツカツになったであろう、28Cのタイヤを履かせたこの状態でまだまだ太いタイヤを付けられる空間があるのがわかっていただけるかと。
レース機材としての最適化、より早い速度域での強力なストップパワーが求められていった結果、細いタイヤが念頭に置かれた一般的なキャリパーブレーキのロードバイクが長いこと世のスタンダードだったわけです。
ただ、
ホビーライダーにとってそのタイヤの細さはお手軽にスピード感が味わえれど、硬い乗り心地と荒れた路面とのストレスだったりと、むしろ「速さ」でなく「楽しむ」為に自転車に乗る僕らのような人間にとってはデメリットの方が大きかったわけです。
そんな中で上記の減少していったバイクジャンルがありました。
32C前後の少し太いタイヤを履かせることができつつもシクロクロスのような悪路向けに設計されたのでなく、あくまでロードバイクに軸足を置き舗装路でのスピード感を味わうためのバイク。
SURLY/Pacer
ALL-CITY/Mr.Pink
SURLYやALL CITYのような、マジじゃない人にとってのマジなバイクメーカーはそんな気心をよく知ってそんなモデルがありました。
しかしディスクブレーキがメインストリームになっていく中でそれぞれカタログ落ちしてしまったこの数年。
この小さな世界における彼らのような大きなバイクメーカーにとって、その時々のパーツや規格の潮流は無視できない要素、
大衆化されていくディスクブレーキに沿ってラインナップが移り変わっていくのは当然の流れでした。
しかしキャリパーブレーキ特有のスリムでシンプルな出立ちは僕らがイメージするロードバイクの姿形のイメージそのもので、
現代のディスクブレーキのバイクは性能を満たしさえすれど、なんかちょっと違うよなぁという違和感はどうしても拭えませんでした。
Velo Orange/Rando
そんな昨今であのブレーキを活かすべく新たにVOのラインナップに加わったのがRando。
タイヤクリアランスが広いことによりフルフェンダーを取り付けられるのもこのブレーキが適合するバイクの大きな特徴。
速さに対してのシリアスな性能(=制動力)を少しだけ代償にする代わりに得た豊かさは小さくないです。
速さを否定する気なんて毛頭ないですが、より速さを追い求める=機材めたいものを求めれば求めるほどあらゆる面においての豊かさから離れていくのは乗り物の宿命とも言えます。
Black Mountain Cycles/Road
こちらは過去にBlackMountainCyclesでも作られていたミディアムリーチロード。
(このモデルと現在でもラインナップされているmonstercrossの2モデルでブランドが発足された象徴的なモデル)
同ブランドにおいても例に漏れずMod zeroやLa cabraのようなディスクブレーキモデルをメインに据え、2020年の生産を最後に廃盤となりました。
伝説的なロードレーサーであるEddy Merckx氏がオマージュされた、Molteni OrangeにダウンチューブのメルクスロゴがオーナーのMikeさんが若かりし頃に大きく影響を受けたであろうロードレースシーンへのリスペクトが溢れてて好きな1台。
ごくごくシンプルなバイクなんですが、monstercross同様不思議と佇まい格好良く見えるんですよね。
(これまた作ってくれないかな。。。)
昨今シリアスなロードレースシーンにおいてそれまでのタイヤの細さから、
ボリュームタイヤが採用されたバイクに跨ったライダーが成績を残したことも相まって、現代では太いタイヤのロードバイクが市民権を少しずつ拡大しています。
それまでは曖昧な立ち位置から存在感が薄かったミディアムリーチロードバイク、
似寄りのタイヤクリアランスのロードバイクが現代の主流になってきたことは昔からそれに乗っているライダー達は予想だにしなかったのでしょうが、何かロマンめいたものを感じずにはいられないですね。
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時代の流れとともに減少している、というのは即ちそれに価値を感じてしまうのも人のサガ。
Ultra Romance周りの人たちはそんなバイクを現代のバイクにサンプリングし楽しんでいるよう。
彼らの作るUltraDynamicoのcava、細めのサイズ帯は元を辿るとそんなバイクに向けて生み出されたんだろうなと思ったり。
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UDクルーと仲良しのCRUST、Malocchioは正に同じ潮流にいるバイク。
日に200kmものロードライディングを楽しむくらいシリアスなライディングも好むUDのパトリックもマロッキオがお気に入りなんだ!なんて一昨年口にしていたっけ。
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そんなジャンルを現代にカスタムのハンドメイドバイクで実現するのは、「この世にないものを形にする」というハンドメイドバイクの醍醐味を体現するロマン。
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「シリアスでない多くの人たち」にとってフィットする存在だったはずのミディアムリーチロードバイク。
それまでのメインストリームなモノだったならまだしも、過去から現代に至るまでニッチなブレーキであるにも関わらず未だに高グレード帯のものを作り続けているVelo Orangeにリスペクトを禁じ得なく、つい冒頭の言葉が漏れ出たというわけです。
他に高グレードなものといえばPaulのRacer Mediumもありますが、”キャリパーブレーキ”の形状とあれば現状唯一神。
VOの数あるラインナップの中でもこれからもずっと作り続けて欲しい逸品の1つなのです。